ブッカー賞受賞作家の長編デビュー作。
原題はA Pale View of Hills(「女たちの遠い夏」を改題)。
イシグロの作品は「日の名残り」や「私を離さないで」以来。
この作品を読めば、「日の名残り」のプロトタイプであることが分かる。
主人公は現在イギリスに住む悦子。
長女の景子は首を吊って自殺した。
悦子は長崎に住んでいた頃を思い出す。
長い回想が始まるが、景子のことはほとんど出てこない。
代わりに佐知子とその娘の万里子の話が続く。
その頃、悦子は妊娠3ヶ月から4ヶ月だった。
みすぼらしい家に住む佐知子。そして学校に通わない万里子と出会う。
佐知子はアメリカ人のフランクと共に、日本から出るということを考えていた。
しかしフランクはかなりいい加減で、佐知子の金を使い込んだりする。
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長い回想という点で、「日の名残り」を思い出す作品。
回想の上手さという点で、イシグロは際立っている。
逆に言えば、回想こそイシグロの生命線。
悦子と佐知子は、互いにもうひとりの自分。
景子と万里子も同じ。結局悦子も日本を出てイギリスに住むのだから。
敗戦と同時に時代は大きく変わった。
夫の父、緒方は元校長で頭を切り替えることができない。
この点日英の読者は、解釈にどんな違いがあるのか。
とても興味深い。
翻訳は小野寺健。
訳者あとがきでイシグロ作品の世界を「薄明」と表現している。
解説は池澤夏樹。「日本的心性からの開放」というテーマで語っている。
作品に出てくる会話が英語で書かれていること。
自分を消しているのがイシグロの作風であると述べている。
司馬遼太郎が、作品中にしばしば大演説を行うことと比較。
しかし、司馬の場合は時代背景や心情を述べており、この比較は司馬に不利。
読者に受け入れられている点を考えれば、私は司馬を弁護したくもなる。
「日本人には本能的な自殺願望がある」(P9より引用)という点。
これは、果たして偏見や誤解なのだろうか。
ずいぶん長い間、日本では年間3万人の自殺者を出していた。
このことを考えれば、日本側として反論しにくい。
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