2014年11月24日

「ダック・コール」稲見一良

幻想ハードボイルドの連作短編集。
第四回山本周五郎賞受賞作。

   カモ

主人公の男は、石に鳥の絵を描く老人と出会う。
絵を見ているうちに夢を見る。

「望遠」

カメラマンの助手は、年に一度の撮影チャンスを狙っていた。
しかしその場に現れたのは珍しいシベリアオオハシシギ。

思わずそのシギを撮ってしまう。
怒ったカメラマンからは殴る蹴るの暴行を受ける。
しかし社長は助手を弁護する。

「パッセンジャー」

舞台は北アメリカ。サムはハトの大群を見る。
サムのいる村と仲の悪い隣村サザンヒル。

リョコウバトの話は知らなかった。
今でもエジプトではハトを食べるという。
絶滅するほど乱獲されるのなら、エジプトの鳩よりよほど美味しいのだろう。

「密猟志願」

肝臓のガンで2回の手術を乗り越えた男が主人公。
密漁を企てるがうまくいかない。そんな時、ある少年と出会う。

二人は密漁を共にすることで親しくなる。
男爵と呼ばれる男の土地で、鴨を奪おうと計画。

このエピソードにはかなり引き込まれた。
元水泳選手の老婦人が出てくるとは思わなかった。

「ホイッパーウィル」

舞台はアリゾナ。主人公は小屋に住むケン・タカハシ。
囚人が4人脱走した。ひとりはケンの小屋で見つかり身柄を拘束された。

保安官は残る3人を追うため、ケンにも同行を依頼する。
ケンは、ハワイ出身。第二次大戦で日系人舞台にいたスナイパーだった。

「波の枕」

漁船に乗っていた源三はトラザメと呼ばれていた。
船火事で海に漂流した源三。板を見つけた。
その板にはグンカンドリとオサガメが先客としていた。

亀の背中に母親の姿を重ねるというのは新鮮。
漂流ものとしては記憶に残る作品。

「デコイとブンタ」

語り手は汚れて塗料も剥げたダック・デコイ。
ブンタと呼ばれる少年に拾われる。

ブンタが話せないということに、私は迂闊にも気がつかなかった。
だから作者はデコイに語らせた。

**** ***** **** *****

書評としては反則だが、この本は読まないと良さが理解できない。
読めば、かなり引き出しの多い作家であることが分かる。

「ホイッパーウィル」に出てくるカエルとサソリの話は、別の小説でも引用されていた。
本質は変わらないという、こんな話だ。

カエルくんとサソリくんのお話し

山本周五郎賞の選考委員だった藤沢周平。
彼はこう述べた。

「まれに見る美しさを持った小説」
(本文「解説」より引用)

もし、「何でも自然バンザイ」の内容なら。
読者はこの小説を見捨てただろう。

そうでないから評価が高まるというもの。
読んでよかったと素直に思える一冊。

作者の稲見は「密漁志願」の主人公と同じく肝ガンだった。
ただ、作品と違うのは手術ですべてのガンを取り除けなかった。
そのため、9作品しか残せなかった。

ファントム・ピークス」の作者北林一光を思い出す。
作家は60を超えてからいい作品を残すこともある。
稲見は長く生きるべき人だった。とても残念。

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posted by りゅうちゃんミストラル at 16:32| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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