スケールの大きさはさすが司馬遼太郎。
「ペルシャの幻術師」
舞台は13世紀のペルシャ。
メナムの町は蒙古軍に征服された。
25歳の王、ボルトルが支配者。
美しいナンを妃にしようとしていた。
長い間雨が降らず、水不足のメナム。
ナンは市場で不思議な男と出会う。従者に後を追わせた。
ある老人から、ボルトルの暗殺を依頼された男。
彼こそ幻術師アッサムだった。
日本人にここまで大陸の物語が描けることが驚き。
今更ながら司馬はただものではない。
「戈壁の匈奴」
1920年の蒙古が舞台。
退役大尉のエフィガムは第一次大戦で左腕を失う。
ケンブリッジで東洋考古学を学んだ彼。
ある壺の謎を追う。
13世紀の西夏。
チンギスハンことテムジンは女を欲していた。
「兜率天の巡礼」
終戦後、大学を追い出された閼伽道竜。
妻との結婚で教授の座を手に入れた。
その妻は死ぬ前に狂ったような姿を見せた。
妻の一族に精神病の遺伝があるのか調べることに。
この作品もスケールが大きい。
どうしたらこのような想像力のある各品を描けるのか。
確か、青森にはキリストの墓があるという。
ならば、中国を経由して日本に渡ったネストリウス派の人がいてもおかしくない。
「下請忍者」
与次郎という下忍が主人公。
忍者といっても小左衛門に使われている。
役目が終われば農作業をする不安定な身分。
逃げた与次郎。孫悟空と釈迦のエピソードそのままだ。
この話が興味深いのは、忍者の世界も厳しいということ。
派遣切りや高齢化社会など、現代に通じる話。
「外法仏」
恵亮という僧が主人公。
太政大臣から、重要な役割を依頼される。
皇太子の座をかけて、比べ馬をするという。
恵亮の祈祷で、この勝負に勝つことができるのか。
「牛黄加持」
主人公は法師義朗。僧の性を描いた異色作。
女性読者はどう感じたのか。
興味深いのは女犯を禁じる仏教にあって、位の高い僧は稚児を性的対象として扱うということ。
まるでカトリックの指導者たちが性的虐待をした事件そのままではないか。
歴史は繰り返すというが、宗教の世界も懲りないね。
無理に抑えつけるから問題が継続するんだ。
「飛び加藤」
金品献上のため、京にやって来た上杉謙信の部下、四郎左衛門。
奇怪な術を使う男と出会う。
謙信は加藤の術に驚くが、恐れもした。
いつ命を狙われるかわからないからだ。
加藤を殺そうとする謙信。
しかし加藤は逃れて武田信玄の下に。信玄は加藤を殺す。
「果心居士の幻術」
前の「飛び加藤」 と並んで知られる怪人、果心居士。
悪名高い松永弾正に協力する。弾正は信長暗殺を考えていた。
順慶は計画を察知し、信長に知らせる。
弾正は死ぬ。順慶は果心を逃がす。
本能寺で信長が死んだ後、秀吉に求められ順慶は果心を会わせる。
果心は秀吉が若い頃犯した女を見せ、殺される。
不思議な術を使うのは、三国志に出てきた選任を思い出す。
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文春文庫の解説は磯貝勝太郎。
奈良の飛鳥近くで生まれた司馬。
大阪外国語学校(今の大阪外大)で蒙古語を学んだ。
その後、産経新聞記者に。
「ペルシャの幻術師」は昭和31年に第8回講談俱楽部賞に選ばれた。
5人の選考委員のうち、海音寺潮五郎だけが高く評価したという。
恥ずかしながら、司馬の作品を読むのは初めて。
時代小説も苦手にしている私。
だがこの短編集を読むと、もっと読んでもいいと感じた。
これほど想像力を必要とする作品たちを読むのは今までにないこと。
よく知られている「燃えよ剣」や「竜馬がゆく」くらいは読むべきか。
それとも「坂の上の雲」や人気のある「菜の花の沖」まで読むべきか。
検討が必要だ。
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