2014年10月22日

「イギリス人の患者」マイケル・オンダーチェ

イタリアの屋敷で大ヤケドを負った男を介護する看護師。
イギリスの権威ある文学賞、ブッカー賞を92年に受賞。

 

この作品を読むきっかけについては、先日以下の記事に書いた。

本の神様、現る?

北アフリカで乗っていた飛行機が墜落した。
生き残った男は大ヤケドを負う。

北イタリアのサン・ジロラーモ屋敷に送られた男。
カナダ人の若い看護師ハナが彼の面倒を見る。

ハナは戦争で父親を失い、生まれてくるはずの子も失った。
多くの負傷兵を手当てし、戦争神経症になる。
ドイツ軍が去って戦線が移動したものの、ハナはイギリス人患者とこの地に残る。

この屋敷に他にカラバッジョという男が来た。
彼は泥棒で、その才能(?)を生かしスパイに。拷問で手の親指を失った。
傷の痛みもありモルヒネを多用する。彼はハナの父親と旧知の仲だった。

もうひとりがインド出身の工兵、キップ。
ターバンを巻くシーク教徒の彼は、爆弾の解体を専門としている。

やがて明らかになる患者の正体。南カイロで何があったのか。
地理学調査と不倫が墜落の背景にはあった。

***** **** ***** ****

まず、詩的な内容に驚く。短文を多用し、詩のリズムになっている。
4人のナラティブ(物語)が重層的に作品を構成しているのも見事。
数ページ読んで、「これはただものではない」という感想に至った。

映画「イングリッシュ・ペイシェント」はオスカー(アカデミー賞)9部門を独占した。
機会があれば観てみたい。

私が読んだのは新潮社のハードカバー。翻訳は土屋政雄。
「訳者あとがき」で興味深いことを述べていた。

「自分が翻訳しているのか創作しているのか、ときどきわからなくなることがある」
(P291より引用)

ところが、この作品に関してはそう感じなかった。
その理由について、こう述べている。

「自分には絶対書けるはずのない作品」
(同じくP291より引用)

この点は私も同感だ。多くの読者が共感できるはず。
このような詩的な作品を書けるのは、作家でもごく一部に限られる。

<この作品と原爆>

終わり近くになって出て来る広島、長崎への原爆投下。
キップは激しく怒り、イギリス人を殺そうとまで考える。

どうしてキップは劇的な態度の変化をとったのか。
この点については、訳者と同じ疑問を私も持った。

そもそも、キップ自身はイギリス軍に属している。
有色人種であるか否かという点だけで人は判断するものなのだろうか。

訳者は広島、長崎への原爆投下についてこうも述べている。

「ドレスデンの大空襲はある意味もっとひどかったし」
(P293より引用)

その後、こうも述べている。

「決して有色人種の国だから落としたのではなかろう」
(同じくP293より引用)

広島市への原子爆弾投下ドレスデン爆撃
両者は勝敗が決しているにもかかわらず行われた残虐行為であること。
これは同じ。

しかし、原爆の場合はその後の放射線障害が何年も残るという悲惨さがある。
その後の被害者も、原爆のほうがずっと多い。
「はある意味もっとひどかった」という点がどこなのか、私には理解できない。

「有色人種だから落とした」という点を否定するのもどうかと思う。
アメリカ軍は広島にはウラン型のリトルボーイを。
長崎にはプルトニウム型のファットマンを落とした。
「有色人種の国で実験」を行ったと見るのは妥当ではないのか。

作者のオンダーチェはセイロン(今のスリランカ)生まれ。
イギリスとカナダで教育を受ける。

ブッカー賞と言えば前に読んだ「日の名残り」(カズオ・イシグロ)。
今後も受賞作を読んでみたい。

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書評175:マイケル・オンダーチェ『イギリス人の患者』

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