10の短編は今読んでも新鮮。
山本の作品は「つゆのひぬま」以来。
作品数が多いので、すべてを紹介できないのが残念。
「花宵」
清之介と弟の英三郎。何故か母は弟にばかり厳しい。
縁側で聞いた客の話から、英三郎は自分が母と血のつながりがないのかと考える。
実は、清之介こそ母とは血のつながりがなかった。
だからこそ弟に乱暴なことを強いていた。
世界中にこうした話は多く存在するはず。
私は「カインとアベル」を思い出した。
昭和17年「少女の友」掲載。
時代を超えて読める作品になっている。
「おもかげ」
7歳で母親を病気で失った正之助。叔母は彼を厳しく育てる。
その後、立派に成長した彼は江戸に向かう。
昭和18年発表の作品。
戦争中だったからこそ、「厳しく育てる」という内容だったのか。
それにしても山本は人情を作品に織り込むのが上手い。
「菊月夜」
信三郎に、疋田家の婿にならないかという話が来る。
その裏には、藩の改革を阻む一派を排斥しようとする動きがあった。
かねてから信三郎には小房という許婚がいた。
しかし小房の父が発狂し死んだことで、その話は立ち消えになっていた。
結婚を機に、信三郎は大目付となり過去の資料を調べる。
小房の父についての疑問が突破口になる。
展開があまりに急だが、歴史小説としてなかなかのできばえ。
小房の行動と手紙には、多くの読者が泣かされたに違いない。
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戦争を知らない私にとって、こうした短編集は貴重。
文化は戦争中も死ななかったんだなあ。
こうした作品たちをもっと前に読んでいたら。
私は時代小説を「読まず嫌い」にならなかったかもしれない。
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