近藤史恵が描く異色作。ネタばれあり。
近藤と言えば「サクリファイス」、「エデン」、「サヴァイヴ」のシリーズが有名。
「天使はモップを持って」、「ダークルーム」という作品も読んできた。
主人公は脚本家の鈴音、36歳。2年つきあった男と別れたばかり。
神楽坂に住み、それなりに収入もある。
高校時代、同じ合唱部だった水絵が夜に電話をかけてきた。
すべてはこの電話から始まった。
待ち合わせのファミレスに行くと、水絵が子連れで待っていた。
7歳になる息子の耕太だという。
水絵は離婚の際、耕太を引き取ったがその後リストラされた。
金の無心かと思った鈴音だったが、自宅に泊めてくれと頼まれた。
仕事を見つけるまでの1週間限定という話だった。
高校を出てから親しくしていたわけではない水絵と鈴音。
いきなりの頼みごとに戸惑う鈴音だったが、引く受けてしまう。
後のことを考えるなら、泊める前に水絵の実家のことなどを訊いておくべきだった。
翌日からハローワークに通う水絵。面接にこぎつけるが、不採用となる。
続けて泊めてもらえるよう頼む水絵。
鈴音は断りきれず、さらに1週間伸ばす。
鈴音は仕事場を別に持っており、予備校講師の灘と知り合う。
灘から、建設事務所で事務員を探しているという話を聞く。
渡りに船と水絵に話し、面接に行くが彼女は断るという。
二人は喧嘩になり、水絵は耕太を置いて出て行く。
鈴音は水絵の実家に電話し、耕太を引き取ってもらうことに。
東京駅に姿を見せたのは、DVしていたという水絵の別れた夫だった。
10年後が描かれるとは思わなかった。
この点は、近藤もどうするか悩んだはず。
以下の記述が記憶に残る。
「時は残酷だ。そう考えて気づく。残酷なのは時そのものより、生きていくことなのかもしれない。」
(P225より引用)
後半出てくる記憶のデコレーションは確かにある。
自分にとって忘れるようなことでも、相手は鮮明に記憶しているものだ。
ひとつ提言。
読者は結婚するしないに限らず、基本的な法律くらいは知っておくべき。
離婚する際になって再婚禁止期間とか300日ルールで慌てないように。
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タイトルが何故「はぶらし」なのか。
読者にはすぐに意味がわかる。
使った歯ブラシを返されてもなあ。
このあたりは近藤の上手さが出ている。
耕太が熱を出したり、子のいない鈴音の考えが細かく表現されたり。
女性作家らしい作品になっている。
近藤は、決して技巧に優れた作家ではない。
しかし、これだけ登場人物が限定された作品を飽きずに読ませる。
この点は大いに評価していい。
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