家に閉じ込められ、砂をかき出す毎日が待っていた。
【送料無料】【ポイント最大10倍】砂の女 改版 [ 安部公房 ] |
31歳の教師、仁木が主人公。彼は昆虫採集を趣味にしていた。
S駅で下車した彼。海岸に向かう。狙うは砂浜にいる昆虫。
その夜、男は砂に埋もれたある民家に泊まる。
翌日、外に出ようとすると縄梯子が外されていた。
男は、女とともに砂を書き出す毎日を送る。
脱出を試みるが、砂の勢いに負けてしまう。
作業を止めると、水の供給が止まる。
この作品、Amazonオールタイムベスト小説100で紹介されていた。
20以上もの言語に翻訳されているという。
この作品が、海外でどんな解釈をされているのか気になる。
不条理という点で思い出すのが「変身」(カフカ)。
朝起きたら虫になっていた男と比較すれば、砂かきは常識の範囲内。
作家は何故、不条理を描くのか。
それは、文学の大きなテーマのひとつが「人とは何か」だから。
不条理に陥ると人はありのままの自分を出すようになる。
また、穴から出られないという状況は「ねじまき鳥クロニクル」(村上春樹)を思い出す。
ノーベル賞を辞退したサルトル。「人は自由の刑に処せられている」と述べた。
文学は逆に、人を描くため様々な不条理を用意する。
後半、連れ戻された男は外に出て空気を吸うことを求める。
村の男は交換条件を出す。みんなの前で性行為を行うこと。
男はその気になるが、女は嫌がる。
私は「こいつ、人としてのプライドはないのか?」と考えた。
だが、毎日砂かきさせられる状況に陥った人はまずいない。
読書感想文でよく使われる「もし私だったら」というのは。
その状況にいないと分からない。
「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ)でもそうだった。
あまりに不条理だと、読んだ時の感じ方と実際の行動には乖離が生じる。
この作品について色々と考えてみる。
まず、タイトルが「砂の男」だったらどうなんだろう。これはたいしたことない。
では次に、砂かきの現状から抜け出すことより、内職でラジオを得ることを求める女。
そして砂から水を取り出す装置に心を奪われる男。
この対比はどうなんだろう。女性の読者はどう感じたのか気にになる。
3つ目に、民法上の失踪宣告7年ということを最初に書く意味はあったのか。
この点は論じる余地があるのではないか。
もし最後に書けば、読者の興味をもっと引き付けられた?
恥ずかしながら、私は安部の作品をこれ以前に読んだことがない。
「頭のいい人が書いた作品」という点では、「死者の奢り・飼育」の大江健三郎を思い出す。
同じ東大でも、安部は森鴎外と同じ医学部。
養老孟司の先輩に当たる。
たとえ生まれ変わったとしても、私にはこうした作品は書けない。
だからこそ読む意味がある。
今日以降、芥川賞受賞作「壁」を読んでみるという選択肢ができた。
一冊の本を読むことによって新たな選択肢が広がる。
それはとてもあいがたいことだ。
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