質の高い短篇集。唯川の作品は「肩ごしの恋人」以来。
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この本は以下の9つの短編で成り立っている。
「口紅」
主人公の原田は妻の化粧を嫌っていた。
それは、母親が男のもとに走った11歳記憶がそうさせるのだった。
妻は病気で入院していた。
だんだんと影が薄くなる妻。原田に口紅を買って欲しいと頼む。
原田は不倫相手の孝子に代わりに買ってくるよう依頼する。
妻の死後に泣く原田。キレのある作品に感心した。
今度、石榴の花をよく見てみよう。
「夜の匂い」
井沢は大学の5年後輩、幹子を付き合うことに。
だが、幹子の友人まり絵が何度も井沢に連絡するようになって・・・
これはすぐ背景が読めた。
女性の同性愛を描くところは女性作家ならでは?
「終の季節」
杉浦は左遷人事で資料室勤務になった。
喫茶店で援助交際しているところを偶然見かけた。
女子高生は娘の同級生だった。
しかも、彼女の父親をリストラしたのは杉浦自身だった。
ところが今度は杉浦自身がリストラの対象に。
彼は娘の携帯から電話番号を知り、援助交際を止めるよう電話をかける。
この結末は読めなかった。
「言い分」
靖子という婚約者がいながら、新入社員の奈保とも付きあう男、浩一。
両者の言い分が食い違い、互いに批判しあう。
以前読んだ「薮の中」(芥川龍之介)を思い出した。
誰かもう一人証言者がいたら、話がもっと立体的になったかもしれない。
「僕の愛しい人」
僕は以前から努力を欠かさないでいた。
だが、この世は努力だけでは成功しない。
僕は千晶を愛しながら、金持ちの真帆子とも付き合うことに。
金銭での援助を約束しつつ、真帆子と結婚することにした。
これはかなりブラックな結末。
宮部みゆきなら、どう描いただろう。
「バス・ストップ」
主人公の木島は家事のできる杏子が妻。
その一方で若い奈美とも関係があった。
離婚を切り出された木島だったが、奈美との新しい生活を始めた。
バラ色どころか家事のできない奈美に落胆する。
何かを得るということは、何かを失うということ。
男って、自分も含めてバカだなあ。
「濡れ羽色」
営業先にいたオールドミスるみ子。
彼女のお陰で契約がまとまった浩次。
しかし取引先幹部の姪である久美は若く、こちらに乗り換えようとする。
初めて部屋に来た久美。話すカラスに何かを言われ、青くなって帰る。
この結末は読めなかった。かなりブラック。
実際にカラスが人に慣れることはまずないという。
だが例外はある。以前テレビで見た。
カラスの雛が巣から落ち、親鳥が育児を放棄。
見かねた男性が巣に返そうとしたが親鳥は拒否。
仕方なく家で飼うことにした。
子カラスの親になった男性。これは本当に珍しいことだという。
「分身」
若い妻がインターネットを始めた。
夫の田崎は、別の男になりすまし妻にネット上で接触する。
最初の頃は夫に何でも話してくれた妻だったが、次第に何も話さなくなる。
そして、田崎はメールで直に合うことを求めた。
待ちぼうけさせる作戦だったが・・・
「父が帰る日」
かつて母親と自分を捨てて失踪した父。
その父が内臓を痛め入院しているという連絡が入った。
最初は拒否する彰一だったが、自宅に受け入れることにした。
息子の修学旅行前日、老いた父が息子のリュックを探っていた。
かつての記憶が蘇り、父親が孫の金にまで手を出したと怒る彰一。
すぐに父を家から追い出すのだったが・・・
この作品は、重松清を思い出す内容。
彼ならどう表現しただろうか。勝手に想像するのは楽しい。
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作家は新しいことを試したがるもの。
女性が描く男というのはこの試みでは成功している。
正直に書くと、私はこの本を無料で手に入れた。
かなりの拾いものだったことは素直に認めよう。
新潮文庫の解説は北上次郎。
唯川の作家としてのターニングポイントを「ベターハーフ」だとしている。
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いつかは読まなければ。
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