第32回吉川英治文学新人賞受賞作。ネタばれあり。
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「アイドルの心得」
目立たない女性が、心不全で亡くなったアイドルとの再会を希望する。
使者(ツナグ)は、高校生のような男の子だった。
再会は、相手が拒否することもできる。
満月の日が長く会えるという。
自殺説も流れたアイドルの死。実際は違っていた。
このアイドル、誰がモデルだったか容易に推測できる。
アイドルは、女性のことを覚えていた。
生前、食べ物や刺繍入りのハンカチなどを贈っていた。
「長男の心得」
工務店を長男であることから継いだ男が、胃ガンで亡くなった母親と再会。
口が悪く、歩美にも容赦がなく憎まれ口の連続。
しかし再会した後、歩美に名刺を渡す。
女性作家が男を描く場合、妙にサラサラしていることがある。
しかしこのエピソードでは不自然さを感じなかった。
「親友の心得」
女子高生の嵐は、事故で亡くなった演劇部の友人御園に会いたい。
主役をめぐり、ライバルとなった御園と嵐。選ばれたのは御園だった。
事故は、嵐が前日に撒いた水が原因かもしれない。
亡くなった御園は、歩美にメッセージを託す。
このエピソード、作者の想いが伝わってくる。
友人を若くして失った人は、感情移入するんじゃないか。
「待ち人の心得」
失踪した女性との再会を望む男。
今回は、生きているか否か分からないというケース。
女性はどうして失踪したのか。そもそも死んでいるのか。
もともと出会った時点で家出していた彼女。フェリー事故で亡くなっていた。
「使者の心得」
この短編集がどう終わるのかと思ったら、最後は使者である歩美から見たエピソード。
歩美の両親はどうして亡くなったのか。使者はどう継承されるのか。
使者のシステムとともに、「死とは何か」という哲学が語られる。
興味深く読めた。
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この連作短編集、いろんな意見があるに違いない。
「使者なんか必要ない!」という人もいるだろう。
その意見はある意味正しい。歩美自身、「死者への冒涜」について悩んでいた。
何が正しいかなど、誰にも分からない。
生と死について、語られることは少ない。
本書のようなフィクションを通じて生と死についてあれこれ考える。
読者はその時点で作者である辻村のペースに嵌っている。
この本、読み終わってからいろいろ考えさせられる。
少なくとも、辻村がファンを増やしたことだけは間違いない。
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追記 この作品読んで思い出すのが「人生論ノート」(三木清)。
三木は、「死について」で以下のように述べている。
私にとつて死の恐怖は如何にして薄らいでいつたか。自分の親しかつた者と死別することが次第に多くなつたためである。もし私が彼等と再會することができる――これは私の最大の希望である――とすれば、それは私の死においてのほか不可能であらう。假に私が百萬年生きながらへるとしても、私はこの世において再び彼等と會ふことのないのを知つてゐる。そのプロバビリティは零である。私はもちろん私の死において彼等に會ひ得ることを確實には知つてゐない。しかしそのプロバビリティが零であるとは誰も斷言し得ないであらう、死者の國から歸つてきた者はないのであるから。二つのプロバビリティを比較するとき、後者が前者よりも大きいといふ可能性は存在する。もし私がいづれかに賭けねばならぬとすれば、私は後者に賭けるのほかないであらう。 |
私は「自分が死者と再会するには死ぬしかない」という三木の意見に賛成できない。
三木に「ツナグ」や「いつでも会える」(菊田まりこ)を読ませてみたい。
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生きながら、死者たちと再会する方法はある。
しかも、いつでも会える。これは三木の考えがいかに狭いかを証明してはいないか?
人は何度も死者と再会しようとしてきた。
オルフェウスは毒蛇に噛まれて亡くなった妻エウリュディケーを取り戻すべく冥界へ行く。
彼が奏でる竪琴に感動して、冥界の王ハーデースは彼にチャンスを与える。
「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件つきで。
しかし彼は冥界の出口で後ろを振り返る。
イザナギも同じく、亡くなったイザナミを追うが後ろを振り返ってしまう。
「見るなのタブー」が洋の東西にまたがるのはとても興味深い。
旧約聖書のソドムとゴモラ(振り返ったロトの妻が塩の柱に)でもそれは同じ。
「ツナグ」に出てきた鏡を見る行為と同じように。
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