彼の回想で作品は進む。89年のブッカー賞受賞作。
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イシグロの作品は、「わたしを離さないで」以来2冊目。
モノローグは、彼の得意技のようだ。
主人公は執事のスティーブンス。ダーリントン卿に仕えていた。
今は新しい主人であるアメリカ人のファラディ氏に雇われている。
ファラディの提案で、彼のフォードに乗り旅に出るスティーブンス。
その間、いろいろな思い出を語る。
旅の目的は、ダーリントンホールの管理運営のためスタッフを雇うこと。
かつての同僚であるミス・ケントンを再雇用するのがスティーブンスの役目。
イングランドの景色が一番というスティーブンス。
執事についても「品格」に拘る彼は、保守的で頑固。
しかし、回想により彼の父親がダーリントンホールでの重要な会議の最中に亡くなる。
影の存在である執事。それを考えれば保守的な彼の考えは理解できる。
ダーリントン卿は、第一次世界大戦後に結ばれたベルサイユ条約の緩和を狙っていた。
ドイツの友人が苦境に喘ぐのを見ていられなかった。
結果的にベルサイユ条約はナチスドイツによって破られる。
ルール炭田の占領など、「ドイツ憎し」のフランス。国際社会によってナチスは台頭した。
多くの国がドイツ側の反発を見誤ったのは間違いない。
スティーブンスはミス・ケントンとどのような話をするのか。
彼女は本当に結婚生活が破綻しているのか。地味ながらも話は進む。
(以下ネタばれ)
この作品は「喪失と再生」を描いている。
主人のダーリントンが失意のまま亡くなり、ミス・ケントンも夫の元に。
「あの時こうしていれば」というのは洋の東西を問わずにあるもの。
今まで何億人が後になって後悔しただろう。
しかし、「再生」の部分は大いにある。
スティーブンスはミス・ケントン(ミセス・ベン)と分かれた後、考える。
アメリカ人のファラディ氏にどうジョークを切り返すか。
タイトルである「日の名残り」(原題「The Remains of the Day」)。
人が回顧するのは、人生の残りが見えた場面。
これから、スティーブンスには出発が待っている。
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モノローグといえば、日本では湊かなえ。
「告白」や「花の鎖」で知られる。
湊の場合は、視点が登場人物によって何度か変わる。
ところがこの作品でもイシグロは、スティーブンスの視点のみで作品を終えている。
この点は「わたしを離さないで」も同じ。
作家とすれば、ひとりのモノローグのみで作品を成り立たせるのはとても難しい。
イシグロは、よくこの選択をしたものだと思う。
何故なら、この形式は作家としての力量が必要とされるからだ。
この作品は93年に映画化された。こちらが予告編。
主役のスティーヴンスを演じるのはアンソニー・ホプキンス 。
正直、私のイメージとは違う。
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