「こちらの事情」と同じく、家族を描いた珠玉の短編集。
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「ホタルの熱」
6歳の息子、駿と電車で旅をする母親。ところが、息子が発熱し途中下車。
息子を医者に診せて民宿に泊まる。
実は夫が失踪し、絶望した母親は死ぬつもりだった。
民宿の女将は親切にしてくれ、家族のことを話し始める。
この宿からはホタルが見えた。
マイナスとマイナスでプラスになる。
数学は、人にも通用するものなのか。
私のイメージでは、下車したのは湯河原。
相模湾に面して温泉があるし、駅前のロータリーもイメージ通り。
「乾いた声でも」
由季子の夫がクモ膜下出血で急死した。
海外出張していた先輩の武井が線香をあげに来る。
すれ違いの夫婦とカーナビを重ねるところがアイデアとして新鮮。
まだ間に合う人は、家族と話し合うべき。
「星空への寄り道」
会社を片付け終えた男は、帰宅のためタクシーに乗る。
運転手に火のついたタバコの投げ捨てを注意される。
名言は「地獄というのは、人の心の中だけにあるものなのではないでしょうか」の部分。
この運転手は厳しい現実があっただけに言うことが深い。
「カレーの匂い」
女性向け雑誌の副編集長をしている敏腕の檜山。
雨宿りしていると、元ライターの女性に出会う。
仕事か家庭か。
女性の選択は厳しいものがある。
檜山の母親が言う、「全部勝とうとするから棘が出る」というのは名言。
全部勝てる能力がある檜山はすごいけど、人を寄せ付けない。
「柿の代わり」
女子高の教師をしている吉村の妻は元教え子。
離婚を切り出されている。
考え事をしていると、警察から電話が入る。
今の教え子が万引きしたという。
生理を万引きの言い訳にする生徒。
盗んだリップクリームも使わず捨てる。反省なし。
柿を盗み食いした吉村とは時代が違う。
この話はやや消化不良。将来への希望も感じない。
「おかあちゃんの口紅」
税理士の男は、母親の精密検査の結果を聞くため妻と田舎へ。
妻に、昔話をする母親。
少年時代、同じクラスだった明紀。彼の母親は若く美しかった。
考えた末、少年はビンを集めた金で口紅を買う。
それは、母にとっての宝物だった。
田舎と明紀の家庭は、「夏を拾いに」そのまま。
母親同士を比べた経験は、私にもある。
「イブのクレヨン」
サラリーマンからイラストレーターになった男。
娘のエリカは血のつながりがない。
いつもは楽しくないクリスマスに、妻はプレゼントを用意していた。
よくできているけど、出来すぎに感じるのは私が素直でないからか。
「粉雪のキャッチボール」
軽井沢のホテルで支配人をしていた父が引退する。
主人公の息子は呼ばれて宿泊する。
従業員の中村君、まるでドラマ「ホテル」の赤川一平みたい。
冬の寒さが厳しい中、キャッチボールは父子とも忘れないだろう。
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各エピソードは短い。
物足りなさを感じた読者もいただろう。
短い分、説明が多い。
しかし、登場人物の心理描写はしっかりしている。
作品が支持されるのは、描写が読者に受け入れられるからだ。
読書のページ(書評)
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