ページが進むにつれて、段々と引き込まれた。
角川文庫 い80−1誰かと暮らすということ/伊藤たかみ |
正直、芥川賞受賞作「八月の路上に捨てる」は期待はずれだった。
だがこの作品は予想以上の出来。読んでよかった。
「セージと虫」
会社で同期のセージと虫壁。
忘年会で前に座ったことから言葉を交わす。
虫壁は、言えないことをメールに書く。
しかしそのメールは送信されることがない。
プリントアウトされたメールをセージの車で捨てに行く虫壁。
しかもその日は大晦日。
実は、こうした「送らないメール」というのは多く存在しているのかもしれない。
あり得ないと否定できないのが怖い。へその緒を捨てるのも怖い。
「子供ちゃん」
独立したデザイナー太一と波子の夫婦。
波子は流産していることから二人の間にはすきま風が吹く。
レンタルビデオ屋「グレープ」でアルバイトする波子。
実はこの店が全体を結びつける。
波子の喪失感がよく出ている作品だった。
この夫婦、最後に再登場する。
会話に出てくる「ど根性ガエル」は、西武池袋線が舞台。
(下井草は西武新宿線)
「やや」
今度はセージがメイン。
脳溢血で倒れた父親がエロ行為に走る。
父を嫌う妹は、援助しようとするセージに反発。
はしかにかかった虫を見舞うセージ。彼女のために買い物をする。
「サッチの風」
レンタルビデオ屋の店長、健一メインの話。
妻の幸子が家を出る。食器洗浄器がきっかけだった。
脇役だと思われた店長の過去を描く。
このことで話に幅ができた。
「イモムシ色」
虫壁に告白しようとするセージ。
狙いが狂って虫を怒らせる。
告白しようとする女性にイモムシ色とか言うなよ。
いい子は真似しないように。
「アンドレ」
名ばかりで部下のいない正樹は、デザインバッグの卸をしている。
脱サラしてカレーの店を開こうか考える毎日。
正樹の恩師、アンドレ(プロレスラーのほう)は偉大。
未来が見える預言者のようだ。
「サラバ下井草」
セージと虫壁再び登場。
熊本出張を前に、セージの携帯を壊してしまう虫壁。
セージが怒ったり浮気したりすることを恐れる虫壁。
時に性格悪い彼女だが、憎めない。
「誰かと暮らすということ」
子どもを作るかどうかがきっかけとなって離婚した鏡子。
大阪から母親がやってくる。
正樹の一家や波子夫婦に出会うのはご都合主義だがいいまとめ方。
希望を残して終わるのは、爽快感があっていい。
***** ***** ***** *****
読んでいて思い出したのは、「その日のまえに」(重松清)。
特に最後のエピソードでアパートの住人が入れ替わるところが似ている。
連作短編集のメリットは、キャラを再利用できるところ。
終わりに近くなると話が深くもなる。
こうした形式の本を、多くの作家は出したがるんだろう。
私は素直に楽しめた。
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「誰かと暮らすということ」伊藤たかみ 感想
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