血のつながりや家族とは何か、人気作家の角田が問う。この記事ネタばれあり。
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「八日目の蝉」や「森に眠る魚」を世に送り出した角田。
流れからいけば、この作品に行き着くのは当然か。
キャンプで集まったのは、精子の提供を受け子を授かった家族。
だがキャンプは数年で終わる。
微かな記憶を頼りに、子どもたちは集まる。まるで引力があるかのように。
この作品の場合は共通の目的がないだけ。「八犬伝」を思い出す。
「ルーツ」(アレックス・ヘイリー)は多くの人に受け入れられた。
それは、人に「自分の祖先を探す」というプログラムがあるからか。
しかも、生物学的な父親を知らない人は少数派。
気になるのは自然な流れと言える。
読んでいて思い出したのが「永遠の仔」(天童荒太)。
そして出生の秘密という点で「氷点」(三浦綾子)。
作品の中に出てきたパーフェクトベビー願望。
「不妊治療を行ってきた親に多くみられる傾向」があるという。
(上記wikipediaから引用)
この作品、東野圭吾や宮部みゆきだったらどう描いただろう。
ミステリーとして内容が違っていたはず。
東野の場合、前の記事が「カッコウの卵は誰のもの」だっただけにつながりを感じる。
宮部は欠損家族を得意としているだけに想像が盛り上がる。
医師でもある海堂尊だったら、医学の面からアプローチしたか。
代理母出産をテーマとした「ジーン・ワルツ」や「マドンナ・ヴェルデ」を出している海堂。
それだけに、こちらも想像が膨らむ。
読んでいて「カタルシスがない」と感じた読者もいただろう。
この作品は、読者を選ぶのかもしれない。
ただ、波留の父親が見つかったとしたら「ご都合主義」という批判が出るだろう。
その際には私も角田を批判したに違いない。
「派手にカタルシスがないところがカタルシス」というところでいいんじゃないか。
私はこの作品にかなり引き込まれた。
「もし自分が波留だったら」と考えれば、彼女の焦燥感に共感できる。
秘密があるというだけで、人はかなりの息苦しさを感じるものだ。
試験管ベビーが世界で500万人。そんな記事が今年出た。
「試験管ベビー」、世界で500万人に(AFP)
(「試験管ベビー」という言葉に違和感はある。
だが記事のタイトルがそうなっている以上、それに従う)
今後は父親を探す人が増えることだろう。それに伴い悲劇も増すに違いない。
代理母の場合も問題は山積している。
代理出産や精子の提供による妊娠について、私はかなりリベラルな考え方。
「他に方法がなければ賛成」する。
だがその考え方は、自分が両親と血のつながりがあるからなのか。
この作品、私にかなりの宿題を残した。
いくら考えても答えの出ないだろう宿題を。
恐ろしいのは、この作品の世界が現実に起こりうるということ。
自分の彼女が、実は同じ父親だったということもあり得る。
そういう時代なんだ今は。
この作品は、角田の代表作になりえるくらい高く評価したい。
黒澤明のように「代表作は次回作」ということで85点。
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