2011年09月22日

「手紙」東野圭吾

強盗殺人犯の兄を持つ直貴の苦悩を描いた東野圭吾「手紙」を読んだ。
いろいろと考えさせられた。
   
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二人兄弟の剛志と直貴。
幼くして父を事故で亡くし、母親までもが病気で急死する。

弟の大学進学を願う兄は、高校を中退し必死で働く。
だが腰痛で就職もままならない。
思い余った兄は、裕福な独居老婦人宅に金を盗むため侵入。

そこで老婦人に見つかり、ドライバーを首に刺して殺してしまう。
すぐに逮捕された兄は、懲役15年の実刑判決を受ける。

兄は、弟に手紙を毎月送る。
進学も諦め、強盗殺人犯の弟として毎日を送る直貴。

苦労して生活費を稼ぎ、恋愛も諦め、就職でも苦難の連続。
誘われた音楽の道も、兄のために諦めざるを得なかった。

作者の東野は、わざと被害者側を物語に登場させない。
それは、終盤に登場させることで読者に印象付けたいという狙いからか。

この作品を読んで、重松清の「疾走」
そして石田衣良の「うつくしい子ども」を思い出した。

印象に残っているのが、平野という社長の話。
差別を避けることなく認める彼の話を、私は納得したわけではない。

自殺と殺人は大きく違う。
それを一緒にしてしまうのは乱暴だ。

自殺は死んだ者の家族が悲しむ。
だが、殺人は被害者家族だけでなく、加害者の家族も苦しむ。
殺人は自殺よりマイナスが大きい。

そして殺人は犯罪だが、自殺は犯罪ではない。
太宰治のように、心中したが一人だけ生き残った場合は自殺幇助になる。

だがその場合でも、起訴猶予になることが多い。
実際に太宰はそうだった。

では、なぜ自殺が犯罪ではないか。
この作品でも出てきた「自殺する権利」があるという説がある。

人は、生まれを選択できない。
ならば、死ぬ権利は認めようとするのがその考え。

もうひとつ、「自殺者無能力説」というのもある。
この説についてはこの作品とは関係ないのでここでは書かない。


話が脱線した。
では、犯罪加害者の家族はどうすればいいのか?

平野社長が述べたように、この問いに正解はない。
強盗殺人犯なら、家族の所にメディアスクラムが起きる。
遺族だけでなく、加害者側の家族も人生が大きく狂う。

残念なことに、この問題はすぐに解決しないだろう。
10年後、20年後もこの作品が意味を持つのは社会が成熟してないから。
東野も、そんなことは望んでいないはず。

自分ならどうしたか。
もし自分の家族が強盗殺人犯だとしたら。

自分のクラスに強盗殺人犯の弟がいたら。
自分の職場に、強盗殺人犯の弟がいたら。

考えると時間がいくらあっても足りない。


また、多くの人は容疑者が逮捕されると「一件落着」となる。
ところが犯罪被害者の家族や加害者家族はそこからが大変。

ある意味、そこからが彼らにとっての始まり。
裁判は判決を出すだけでその後については答を出さない。

この点を、忘れないようにしたい。
もちろん東野もこの点を忘れてはいない。
被害者側の視点は「さまよう刃」で描かれている。


ひとつだけ苦言を。

由美子が引ったくりに遭い、娘が頭に傷を負う事件があった。
犯人の両親が直貴夫妻の所へ謝罪に来る。

その後、直貴はこう言う。

「あの人たちが俺たちの機嫌を取ったって、裁判の結果には何の意味もない」
(太字部分、文庫386ページから引用)

これはおかしいんじゃないか。
裁判では被害者の感情が重要になるケースは多い。

何度か刑事裁判を傍聴した経験からしてもそれは言える。
起訴事実をひっくり返すことが困難な事件の場合。

弁護側は情状酌量を求める作戦に出る。
その時、弁護士は両親が被害社宅に謝罪に訪れたことも訴えたりする。
これは、裁判結果に有利になるとの読みがあるからだ。

私の勘違いだろうか。

本当は東野圭吾の最新刊を読みたい。
だが「麒麟の翼」と「真夏の方程式」は図書館で350人予約待ちの状態。
たまには読んでいない作品を捜して読むのも悪くはない。

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↑この記事のコメントに注目した。
私も強盗殺人と交通事故の違いは大きいと感じる。

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