厚いが読む価値のある本。傑作だ。
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トレーラーのタイヤが外れて女性を襲う。
その女性は死亡する。
整備不良として片付けられるこの事故。
運送会社の社長である赤松は納得せず真相究明に奔走する。
彼はいつも分の悪い戦いを強いられる。
被害者の家族からは恨まれ、会社の資金繰りも行き詰まる。
古参の社員までもが会社を見捨てる始末。
PTAの会長としても、トラブル連発。
しかし彼は戦いをやめるわけにはいかない。
自分や家族、そして従業員とその家族を支えているのは自分だからだ。
この「諦めない戦い」というパワーに恐れ入った。
遺された息子の文章には泣けた。
ホープ自動車の社章がスリーオーバルであること。
読者にはモデルが三菱であることは明らか。
三菱リコール隠しは社会問題となった。
三菱グループ各社は、この作品を入口に置いたりしないのだろうか?
人は弱い。
巨大組織や警察といった公権力の前に、正しいことができなくなる。
だからこそ企業の不正は後を絶たない。
もうひとつは、内部告発者への報復。
トナミ運輸を思い出す。
会社はヤミカルテルを告発した社員に32年間、空き地の草むしりをさせた。
トナミ運輸 内部告発と報復(wikipedia)
愛媛県警で裏金を告発した仙波敏郎氏。
職務経験と何の関係もない通信指令室付に突如異動させられた。
日本では、内部告発者に対して「裏切り者」という目で見る。
恐ろしいことだ。
救いは沢田の妻、英里子の存在。
彼女はホープ自動車の社外取締役になるべき。
本を読んでいてよく考えることがある。
それは、もしこの作品を別の作家が書いていたらということ。
「経済小説」「企業小説」で知られる城山三郎だったら。
「沈まぬ太陽」の山崎豊子だったら。
そう考えるだけで妄想する時間がいくらあっても足りない。
ところでこの作品はハッピーエンドではない。
事故で亡くなった女性は戻ってこない。
「人の命がもっとも大切」ということは多くの人が言う。
だが実際は、企業や保身のほうが大切になってしまう。
我々が知らないだけで、隠された事実が多く眠っているはず。
雪印、シンドラーエレベータ、JR西日本など思い出すだけで不正は多い。
今生きている社会の怖さを感じる。
「巨大企業は間違えない」ということなどあるわけがない。
この作品が、直木賞に選ばれなかったのはとても不思議。
先日、「下町ロケット」で直木賞を受賞した池井戸氏。
彼は大学卒業後、銀行勤務の経験があるという。
そういえば、この作品にも銀行での場面が多く登場する。
次に読みたいのは「下町ロケット」。
だが、すでに図書館で順番待ちが70人を超えている。
銀行を描いた「シャイロックの子供たち」を先に読むべきかも知れない。
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>コメントする人は、まず挨拶しましょう。
『下町ロケット』ですが、記事にも書いたように、図書館での順番待ちが長いです。
読めたとして来年になるでしょう。