書評で多くの人から高い評価を得ている。
(この記事、ネタばれあり)
リプレイ / 原タイトル:Replay (新潮文庫) (文庫) / ケン・グリムウッド 杉山高之 |
この作品は87年に発表された。
主人公のジェフ・ウィンストンが記憶を持ったまま、25年前に飛ばされる。
古典的なタイムトラベルだが、25年経過すると死亡。
そして再び18歳に戻る。これを繰り返す。
<1回目のリプレイ>
大学生のジェフは未来の記憶を駆使する。
競馬やワールドシリーズ、そして株で大儲け。
大学で先輩のフランク・マードックとともに「未来社」を創設する。
注目したのは、奥さんのリンダと再び付き合おうとするところ。
新しい人生なのだから、別な道を選びそうなのにジェフはそうしなかった。
子宮外妊娠で欲しがった子どもができないにもかかわらず。
世界を支配しようとすれば、ある程度はものにできたはずのジェフ。
彼の誠実さがよくわかる部分だ。
だが急に接近してきたジェフに対し、リンダは警戒してしまう。
結局ジェフはこの回、リンダと結ばれずに終わる。
誠実といえば、ケネディー暗殺を食い止めようと必死になるジェフ。
情報をリークすることで暗殺犯人とされたオズワルドの身柄拘束に成功する。
だが、それでもケネディー暗殺は実行されてしまう。
暗殺事件を防げなかったことを悔やむジェフ。
逆に、相棒のフランクには「未来を読める」ことで恐怖感が芽生える。
暗殺事件をきっかけに、ジェフとフランクは別の道を歩むことになった。
ここで重要なのは、「運命に人が立ち向かうこと」。
変えられる未来と変えられない運命。
大金を手にしたことで成功したジェフだからこその悩みがある。
そしてジェフは再び倒れる。
<2回目のリプレイ>
1回目のリプレイで娘を得たジェフ。
しかし彼女はリプレイによって失われてしまった。
この経験から、ジェフは精管を手術して子どもができなくなる。
ここでも彼の誠実さがよく現れている。
今回は前のように派手な成功はしなかった。
堅実な投資を続けるジェフ。
学生時代に付き合っていたジュディと結婚したジェフ。
二人の養子を迎えることを決める。
<3回目のリプレイ>
今回も、ジェフが持っている知識で財産を作ることからはじめる。
その後は退廃的な生活をパリで送る。
その後、農業中心の隠遁生活を始めるジェフ。
大ヒットした映画「星の海」を観てパメラを知る。
パメラはジェフと同じくリプレイヤーだった。
そんな二人もやがて寿命を迎える。
<4回目のリプレイ>
前回と同じく、ジェフは投資で財産を築く。
「戻ってきた」パメラと再会し、新聞に広告を出す。
二人以外にもリプレイヤーがいるのではないかと考えたからだ。
そして3人目の人物を知る。
スチュアート・マカウワンは精神病者で殺人鬼だった。
この頃から、リプレイに「ズレ」が生じることを知る二人。
サイクルがだんだんと短くなってくる。
<5回目のリプレイ>
前と同じくジェフは投資で財産を築く。
またも新聞に広告を出す。
今度の広告は、未来を予言できると公言する内容。
周囲は予言が当たることに驚く。
安全保障上の問題で、国務省からヘッジズが派遣されてくる。
その後もリプレイは続く。
描かれるアメリカ現代史はとても興味深い。
まるで映画「フォレスト・ガンプ」を観ているかのようだ。
ケネディ暗殺だけではない。
アップルがスティーブ・ジョブズガレージで始まったということ。
ベトナム戦争で抗議のため、僧侶が焼身自殺した件など。
作者が実に多くのことを調べて書いているのは驚き。
この小説は、日本人の作家にも大きな影響を与えていることは容易に想像できる。
たとえば北村薫の「ターン」。
自動車事故が起きる時刻になると、前日に戻ってしまう設定。
ループする期間が短いのが特徴だ。
150日目に外の世界と連絡が取れ、同じ境遇の人とも出会う。
同じく「スキップ」もタイムトラベル。
17歳の女子高生が、「リプレイ」とは逆に25年後に飛ばされる。
私が「リプレイ」で思い出したのは、日本のテレビドラマ。
「君といた未来のために 〜I'll be back〜」。
堂本剛演じる大学生が何度も4年前に飛ばされる。
逆に、「リプレイ」が影響されただろう作品といえば「夏への扉」(ハインライン)。
未来から来たタイムトラベラーが、過去を変えることで歴史を変えようとする話。
50年代に発表された古典的名作として知られている。
「リプレイ」の場合、時間に制約がある点が興味深い。
いくら成功しても、「有限」であることは実際と何ら変わらない。
だからジェフやパメラは悩む。
私は小説を再読することが少ない。
だがこの作品は再読したい。それほどの名作。
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