北村薫はこの「鷺と雪」で直木賞をやっと受賞した。
(この記事ネタばれあり)
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最初に断っておくと、私はベッキーさんシリーズを初めて読む。
北村ファンからすると、それはとんでもないことなのかもしれない。
だがこの作品から北村の作品を読み始める読者もいるはず。
この本は、以下の3作品から成り立っている。
貴族の生活を抜けて失踪した男を捜す「不在の父」。
中学受験を控えた少年とライオンの接点をめぐる「獅子と地下鉄」。
そして「鷺と雪」はドッペルゲンガーの謎に挑む。
「不在の父」は、実際にあった男爵失踪事件をもとに書かれている。
滝沢子爵はどうやって屋敷を出ることができたのか。
そして失踪の理由は何なのか。
北村の作家としての真価が問われるのは、滝沢子爵の妻をどう表現したか。
軽井沢行きの列車でのエピソードは読んでいて痛い。
貴族には貴族の悩みがあるものなんだなあ。平民でよかった。
「獅子と地下鉄」では、獅子にまたがる受験生の話が出る。
願掛けで実際にそんなことをするとは知らなかった。
知恵をつかさどる文殊菩薩が獅子に乗っているのも知らなかった。
「鷺と雪」では、台湾にいるはずの婚約者が写真に写っていた。
それを見た小松千枝子から相談を受ける英子。
巻末を読めばわかるが、北村はこの作品を書くために多くの資料を読んでいる。
3作品に共通する不吉な予感をブッポウソウが予感させる。
少しだけ登場する女性飛行士のアメリア・イアハート。
彼女は世界一周飛行の途中で行方不明になっている。
日本ではあまり知られていないが、彼女は行方不明となることで伝説になった。
「星の王子さま」で知られるサン・テグジュペリのようだ。
(サン・テグジュペリは、乗っていた飛行機が1998年になって発見された)
話が脱線した。
あくまで真相を明らかにするのは花村英子の役目。
ベッキーさん(別宮みつ子)はそんな彼女を見守る。
本業の運転士だけではなく、時には拳銃を手にして。
真相と謎の背景を、豊富な知識で表現する。
昭和11年2月に何が起きたのか。
「騒擾ゆき」ですぐに気がつくべきだった。
英子や彼女の家族はその後の戦災でどうなったのだろう。
2.26事件といえば有名なのが宮部みゆき「蒲生邸事件」。
北村は、当然この作品を読んでいるはず。
どの程度影響されたのか、訊いてみたいものだ。
直木賞受賞について
「なぜこの作品が・・・」という意見を、ネットの書評でも多く見かける。
私もその点は気にかかる。
だが、「直木賞受賞作がその時点での代表作でない」のは今回に限らない。
東野圭吾が受賞した「容疑者Xの献身」は受賞作にふさわしいか。
重松清の「ビタミンF」、宮部みゆきの「理由」もそうだ。
「これで受賞の逃したら、北村薫は直木賞に縁がなかった」
それを回避するための「特別賞」という気がする。
もちろん、「特別賞」にも意味はあるのだけれど。
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