約10年ぶりに再読。ネタばれあり。
樹原亮は、保護司夫妻を殺害した罪で死刑判決を受ける。
しかし事件直後、彼はバイク事故により数時間の記憶を失ったままだった。
断片的な階段の記憶はあるものの、現場付近に階段はない。
刑の確定から7年が経過し、再審請求も却下された。
死刑執行が迫る。
傷害致死事件で 懲役2年の判決が出た三上純一。
仮出獄した彼は、刑務官の南郷から仕事を持ちかけられる。
樹原の無実を証明するという内容だった。
報酬は1ヶ月で100万円。それを3ヶ月。
無罪を証明できたら成功報酬として1000万円もらえる。
純一の家族は7000万円という賠償金の支払いに追われていた。
南郷と調査することになった純一。
南郷は高卒で刑務官になった。今まで2回、死刑執行を経験。
死刑へのトラウマが、妻との別居につながっている。
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高野にとって初めての長編で、乱歩賞受賞作。
中身の濃さに感心した。多くの読者が夢中になるのも納得。
死刑執行の実際や、不明確な恩赦の実態。裁判は何のためにあるのか。
6ヶ月以内の執行が法律で定められているものの、実際は守られていない。
獄中での請願作業が賃金の安さで知られているのは知っていた。
それにしても時給32円、月に5000円というのは安すぎる。
死刑執行には3つのボタンが使われる。
誰がボタンを押したのか分からないような配慮からだ。
ミステリー小説としての構成も見事。
冒頭、死刑執行の「お迎え」シーンが描かれている。
終わり近くにも、この場面が再現される。
読者はその意味を知っている。
指紋に関する点は、やや説明不足か。
腕時計やネクタイに関する記述は事実なのだろう。
以下の記述が印象に残る。
日本人はな、悪人を死刑にしようと心の中では思いながら、それを口にする人間を白い目で見るんだ。本音と建前を使い分ける民族の陰湿さだよ。
(文庫P184より引用)
法務省事務次官は「まるで死神だ」と考えた。
(同じくP244)
そういえば、ある法務大臣が次々と死刑執行命令書にサインしたことがあった。
とある新聞がその行為を「死に神」と称したことがあったのを思い出す。
私が読んだのは、講談社文庫。解説は、宮部みゆき。
乱歩賞の選考委員だった彼女。
選考が、ほぼ満票だったことを述べている。
選考委員たちは、記憶喪失の被告人に死刑判決を出すか否かについても話し合った。
これは、「半落ち」(横山秀夫)が直木賞落選した際のような騒動を避けるためだ。
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