第四回山本周五郎賞受賞作。
主人公の男は、石に鳥の絵を描く老人と出会う。
絵を見ているうちに夢を見る。
「望遠」
カメラマンの助手は、年に一度の撮影チャンスを狙っていた。
しかしその場に現れたのは珍しいシベリアオオハシシギ。
思わずそのシギを撮ってしまう。
怒ったカメラマンからは殴る蹴るの暴行を受ける。
しかし社長は助手を弁護する。
「パッセンジャー」
舞台は北アメリカ。サムはハトの大群を見る。
サムのいる村と仲の悪い隣村サザンヒル。
リョコウバトの話は知らなかった。
今でもエジプトではハトを食べるという。
絶滅するほど乱獲されるのなら、エジプトの鳩よりよほど美味しいのだろう。
「密猟志願」
肝臓のガンで2回の手術を乗り越えた男が主人公。
密漁を企てるがうまくいかない。そんな時、ある少年と出会う。
二人は密漁を共にすることで親しくなる。
男爵と呼ばれる男の土地で、鴨を奪おうと計画。
このエピソードにはかなり引き込まれた。
元水泳選手の老婦人が出てくるとは思わなかった。
「ホイッパーウィル」
舞台はアリゾナ。主人公は小屋に住むケン・タカハシ。
囚人が4人脱走した。ひとりはケンの小屋で見つかり身柄を拘束された。
保安官は残る3人を追うため、ケンにも同行を依頼する。
ケンは、ハワイ出身。第二次大戦で日系人舞台にいたスナイパーだった。
「波の枕」
漁船に乗っていた源三はトラザメと呼ばれていた。
船火事で海に漂流した源三。板を見つけた。
その板にはグンカンドリとオサガメが先客としていた。
亀の背中に母親の姿を重ねるというのは新鮮。
漂流ものとしては記憶に残る作品。
「デコイとブンタ」
語り手は汚れて塗料も剥げたダック・デコイ。
ブンタと呼ばれる少年に拾われる。
ブンタが話せないということに、私は迂闊にも気がつかなかった。
だから作者はデコイに語らせた。
**** ***** **** *****
書評としては反則だが、この本は読まないと良さが理解できない。
読めば、かなり引き出しの多い作家であることが分かる。
「ホイッパーウィル」に出てくるカエルとサソリの話は、別の小説でも引用されていた。
本質は変わらないという、こんな話だ。
カエルくんとサソリくんのお話し
山本周五郎賞の選考委員だった藤沢周平。
彼はこう述べた。
「まれに見る美しさを持った小説」
(本文「解説」より引用)
もし、「何でも自然バンザイ」の内容なら。
読者はこの小説を見捨てただろう。
そうでないから評価が高まるというもの。
読んでよかったと素直に思える一冊。
作者の稲見は「密漁志願」の主人公と同じく肝ガンだった。
ただ、作品と違うのは手術ですべてのガンを取り除けなかった。
そのため、9作品しか残せなかった。
「ファントム・ピークス」の作者北林一光を思い出す。
作家は60を超えてからいい作品を残すこともある。
稲見は長く生きるべき人だった。とても残念。
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