「ベルリン飛行指令」の登場人物が一部登場する。
主人公は日系アメリカ人の斉藤賢一郎。
高卒後、船員を経てスペイン内戦に義勇軍として参加。
アメリカ国内で殺人事件を起こし、告発しないことを条件にアメリカのスパイとなる。
米軍基地内で訓練を受ける斉藤。
教官はテイラーと日本に留学経験のあるキャスリン。
斉藤への指令は、日本に潜入し主力艦隊の動きをアメリカ側に報告すること。
日本には、朝鮮人の金森とアメリカ人牧師スレンセンが協力する。
金森は日本の炭鉱で働き、塵肺に。
その後タコ部屋に入れられ、棒頭を殺害して逃亡。日本を恨んでいる。
牧師は中国で恋人だった娘を無惨に殺された。
この二人の憎しみはとても深い。
ABCD包囲網の中、日本は真珠湾攻撃を選択する。
機動艦隊を択捉島単冠湾に終結させることが決まった。
一方、択捉島では、駅逓の主人となった岡谷ゆき。
ロシア人との混血で、男を追いかけて島を出た過去がある。
この駅逓にはクリル人の宣造がいた。
艦隊の動きを追うため北に向かう斉藤。
東京から青森、函館、根室、そして択捉。
東京憲兵隊の磯田軍曹が追いかける。
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文庫で600ページを超える大作。
しかし読みにくさはなく、次のページが気になる面白さ。
少なくとも、日本人作家のスパイ小説としては最高に近い出来。
スパイ小説としては柳広司による「ジョーカー・ゲーム」、「ダブル・ジョーカー」。
「パラダイス・ロスト」のシリーズもある。
長編の力作という点で、本作品は抜きん出ている。
読者は歴史的事実を知っている。となれば、作家の力量が問われる。
「どうなったか」ではなく「どう描くか」。この作品は人を描けている。
右傾化した読者なら、南京事件と朝鮮人に対する描写が気になるはず。
特に最近は、従軍慰安婦に関する朝日新聞の誤報が大きな話題となった。
今この作品を読むのは意味があったということなのか。
太平洋戦争時の北方領土を描いた作品といえば、「終わらざる夏」(浅田次郎)を思い出す。
私は「エトロフ発緊急電」のほうが興味深く読めた。
斉藤や金森、スレンセンは、時代に翻弄された。
差別や戦争がなければ別の道があったに違いない。
佐々木による戦争三部作は「ストックホルムの密使」が未読。
近いうちに読まなければ。
文庫の解説は長谷部史親。
この作品が「針の眼」(ケン・フォレット)と似ていると述べている。
こちらも未読なのでいつか読まなくては。
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